【日 時】2002年1月19日(土)Aプログラム:16時30分〜、Bプログラム:18時35分〜
【場 所】アテネ・フランセ4階ホール
【主 催】アテネ・フランセ文化センター、喜劇映画研究会
10年め、10回めを迎えた本企画の参加アーティストは前年と同じ編成であった。が、前回好評によるファン・サービスの再結成というよりも、ミュージシャン同士が互いを呼び合いトーナメントで楽曲バトルを競う、といった色合いが一段と濃くなっていた。
これまでの『夢の森にて』は常に新しい「古典の解釈」、「映画(過去)と現在(ミュージシャン)の時間を超えたコラボレーション」をテーマに構成されていた。それ故に同一メンバーの再編がなされなかったのも事実ではあるが、今回は昨年の終演後にパーカッション・高良久美子女史をして「この編成がおそらく最高の組み合わせかも・・・」と言わしめた超絶楽団にとっては、当然の帰結となったのであろう。この言葉を裏付けるかのごとく、以前にも増してミュージシャン相互の結束は固く(その分、進行スタッフはアラが目立ち・・・!?)、お互いの技量を挑発しながらスリルで展開を楽しむバトル・シンフォニーと、各人のモチベーションを明確なクライマックスとする、攻守一体の無敵ライブ上映会となった。
上演内容から考察すると、今回はルネ・クレール初期の短編「幕間」(本番当日まで上映プログラムとしては宣伝告知しなかった)を加えた事が、ミュージシャン軍団の連帯感を高めた要因かもしれない。この作品はシュール・レアリスムの画家フランシス・ピカビアと気まぐれ天才作曲家エリック・サティによる創作バレエ「本日休演」の第一幕と第二幕の合間に余興で上映される為に作られた佳品で、サティはこの映画伴奏用に二管編成オーケストラの楽曲を書いていた。そして映画「幕間」の内容はピカビアの原案によるもので、ピカビア、マルセル・デュシャン、マン=レイ、サティと前衛演劇家ジャン・ボルランの道化に徹した出演によって敬愛するマック・セネットのドタバタ喜劇を模倣、キッチュな改良(?)のうえに完成させた1920年代のトランス・ムービーといえる。
さて、この映画に使用されるサティの楽曲は、自らが『家具の音楽』と命名した連作のひとつで、単調なリフが壮大なシンフォニーへと発展する件りが当に現実と悪夢の衝突を思わせる作風のもの。今回の上演用に入手した譜面は初演時の二管オケ用のもので、サティの指示による場面説明と「8小節ごとのリフ」という説明があった。が!9小節のリフあり、映画はワンカットなし(欠損)、意味不明のト書きあり、おまけに他作品との連続上映により映写スピードはオリジナルの1.5倍とスゴイ課題が出てきた。リハーサル中、各ミュージシャンの解釈で作品と譜面の相対性を検証するもケンケンガクガク!(希望が見えた瞬間に第一回めの飲み会へ突入!?)、朝までの暴飲にてリハ第二ラウンドは大ブレイク(本当にコワレタ?)、ここで映画音楽の作曲家・谷川賢作氏のキョーレツな底力が発揮された・・・。
本番当日、サンドイッチマンに扮した当会代表の某Aが拡声器で開場を宣言、あっという間に埋まってしまった客席。テレビの取材も入るとウワサが飛び交う中、いよいよ一年ぶりに最強の6人(本番前はいつにない緊迫感!)が入場、1992年の第1回『夢の森にて』で最初に上演した「ノートルダムの仲立ち男」が谷川氏の新アレンジでオープニングを飾る。次いで弁士2度目の挑戦となるHISASHI氏の空間を切り裂く百色ボイスがガトリング砲のごとくに炸裂!の「ちびっ子ギャングのドッグ・デイズ」からは客席とミュージシャンが一体となっての大爆笑、本作品のセッション・リーダー高良女史の閃光を放つマリンバ奏法がホール内の空気を収攬すると、「幕間」はそのまま休止なく突然に始まった。臨戦態勢のミュージシャン!御来場の方々やステージ側から見たスタッフ、そしてミュージシャン自身も互いに「幕間」上映直前の凛とした雰囲気、演奏中の威迫を感じていたという。それはサティの映画音楽に対する真摯な再現というほど安易なステージ表現ではなく、リスペクトと攻撃力の葛藤と思える。
当会代表A某の司会による「ピカビアはこの当時『作っている最中、完成した時の状態、客観的な印象が違う事こそ芸術』とか言ってたそうですが、谷川さん、きょうの演奏こそピカビアのアバンギャルドを実感したものでは?」とのツッコミに対し、谷川氏「ノー・コメントです。言い訳しません・・・」と返答したうえで「本日はプログレッシブでした〜」と大役を終えた後の充実した洒落がこぼれた。上演後の感想には「とても6人で出したとは思えない厚い音像」という様な内容が多くあった(しかもHISASHI氏は声のみ!)。そして飄々としたトロンボーンのメロディから急転して神業ベースとなる青木泰成氏の楽曲「リバティ」で、HISASHI氏がまたまた百色ボイスを披露!Bプログラムはそれまでとは一転、ゴージャスな歌唱と演奏を前面に打ち出した内容に万雷の拍手!!
映画ファンはやはりミュージシャンの苦労「幕間」を称え、初見のお客様はBプロの圧倒的なHISASHIボイスに魅せられた様なイベントであった。こうして全プログラム終了と共に10年目の集大成と思える評価を戴き、出演者、スタッフは安堵に胸をなでおろし、ミュージシャン軍団は極楽飲み会へ、スタッフは奈落反省会へ・・・。前回までと比べ、またまた「夢森」初体験のお客様が全体の半数以上だった事と、(ここ数年間続いた20代前半の女性客が全体の8割という雰囲気はなくなり)30代半ば以上のお客様にプロ演劇家やプロ・ミュージシャン、教育関係者が多く御来場されていた事が次回へのアプローチとなるであろう。だが10周年を一区切りとしても、上映作品の知名度・レア度と演奏を重視した場合のイベント性のいずれにも到達点は見えない。やはり夢の森なのだ。
スタンバイ風景1 スタンバイ風景2 「ぴあ」に掲載された告知
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